ベルリンの壁が崩される9年前の話。
確か日本でも、この頃になると東ドイツの実情はかなり知られてきていたと記憶する。
所謂“共産国”という恐怖国家で、西側への逃避を願っている女医の物語。
予告篇でも表されていたが、このバルバラとは、国家にとって好ましからざる思考・行動があり、その為に地方の病院へ左遷されてきたことが窺い知れる。しかも、赴任先でも、一見親切にしてくれるアンドレは、同僚でもある一方彼女の監視員でもある。
かつて、太平洋戦争時に日本でも“隣組”という組織が制度化されていたが、結局相互監視の組織の意味合いが強く、この作品当時の東ドイツや今の北朝鮮のような密告が奨励されていた時期もある。相互扶助組織なんてのは、見せかけの姿に過ぎない。
バルバラも国家による監視を受けているが、その隙を見計らいながら誰かと連絡を取り合っている。第二次世界大戦時のパルチザンのようなものかとも思ったが、それよりもっと素朴なもので、西側に住む恋人との連絡であった。
しかし、それにしてもそれは国家にとっては危険分子の動き以外の何物でもなかった。
彼女はただ単に恋人との愛にあふれた将来を夢見て、それを誰にも邪魔されたくなかっただけなのに、彼女を取り巻く環境はそれを許さない。
そして、彼女の医師という自意識をくすぐる事件も起きる。
ステラという作業所(北朝鮮で言う所の収容所みたいなものだろう)を命からがら逃げ出して、しかも妊娠までしているらしい。バルバラに信頼感を覚えたステラは、作業所に戻さないでとお願いするが、バルバラ一人の力ではどうにもならず、結局ステラは戻されていってしまう。
そこは映画。
ステラは去って行っただけで終わったのではない。
バルバラが恋人の手配で西側に逃げようと計画された夜、作業所を抜け出してきたステラがバルバラのアパートに逃げ込んでくる。どうやら宿った命は流してしまったようだ。
ステラを連れて約束の海岸へ向かうバルバラ。待っていると約束通り、脱出の請負人がやってくるが、彼が携えていたのは一人乗りのボートのみ。バルバラは迷うことなく、請負人にステラを託す。
一方バルバラが去って行ったアパートには、監視人のシュッツと同僚のアンドレが駆けつける。血と治療の跡を見てとったシュッツはアンドレに「もう彼女が帰ってくることはない」と言い残してアパートを立ち去る。
普通に考えればそうなのだろうが、翌朝自殺未遂した少年の看病に当たっていた病院に戻ったアンドレの下にバルバラは戻ってくる。

医師としての覚悟と罪人としての覚悟をした、ラストシーンでのバルバラの目線は力強いが、彼女のその後を考えるとやるせなくなってしまう。